ホーム » Top interview » ページ 3
川上:ちょうどその頃、同じ塗装業の先輩経営者からの誘いで「本気で経営について学ぶ気があるなら、同友会に入れ」と、岩手県中小企業家同友会という団体を紹介していただきました。同友会には「経営指針を創る会」(現:人を生かす経営・経営指針実践塾)という約半年かけて経営について学ぶ勉強会があり、受講してみないかと誘いを受けました。
受講期間が3~8月の繁忙期で「忙しいから」と断っていましたが、先輩経営者の「お前、塗装で日本一になるんだろ!?じゃ、受けなきゃなれないだろ!?」の一言で受講を決めました。まあ単純ですね(笑)。この時に本気で学ばなければ、とっくに廃業していたと思うので、きっかけをいただいたことに本当に感謝しています。
ー実際に受講してみていかがでしたか?
川上:とても大変でした…。これほど経営について深く考えたのは初めてでした。今では笑い話ですが「会社の強みは何ですか?」という問い対し、「義理と人情と男気です。」と本気で答えてました(笑)。もちろん鼻で笑われました。生い立ちから起業、ビジョンまですべてについて考え尽くす会なので、涙したり叱られたり大変でしたがそこでの学びが今でも私の経営の軸となっています。
それともうひとつ。
受講の数年前の話ですが、児童養護施設で働いている友達から「相談したい事がある」と連絡が来て、話を聞きに行きました。「高校には入ったもののすぐに中退してしまい、施設を退所しないといけない少年がいるので働かせてくれないか」という相談でした。初めて会った時は、坊主で体が細くて表情も固く、第一印象は元気のない感じでした。その流れで創業4年目の30歳の時、15歳の歩(あゆむ)という社員が入社します。その頃、僕たちはまだ子どもがいなくて「子育て」なんてわかりませんでしたが、親代わりになってアパートを契約して、弁当を作って毎日関わりました。他の社員も同僚以上の弟のようにかわいがりました。花見をしたり、カラオケやダーツに行ったり、楽しい時を過ごしてたくさん思い出ができました。元気に笑うようになり、子どもの頃から辛かった分たくさんたくさん甘やかしてあげたいと思っていました。

ある日、経営指針の会も佳境に入ってきた頃、夜の10時半頃に一本の電話がありました。病院からでした。歩が交通事故で危篤という事で、直ぐに社員が集まって病院に駆けつけ、血だらけの歩の手を握りました。そして、みんなで亡くなるのを見届けました。理解が追いつかず、悔しくてたまらなくてみんなで泣きました。
その時に「社員や関わる人、地域の役に立つ、人を幸せにする会社を作る」と強く心に刻みました。その頃、僕たちはみんな若くて、実績も信頼もありませんでしたが、苦楽を共にした歩にこの先の景色を見せられないのが何より辛いことでした。将来、誰もが認める会社になっているところを、休みの日でも作業着を着るほど会社が好きだった天国の歩に、絶対見せたいと思いました。
ーそうでしたか…。それはとても辛かったですね。
川上:「経営指針を作る会」では同期の仲間もでき、本当に良い経験をとなりました。
ーその経験が今に繋がっているんですね。川上社長にとって大切にしている事はありますか?
川上:今も昔も社員という「仲間」が一番大切です。いつでも一緒に苦しみ、泣き、笑い、どんな壁も一緒に乗り越えてきましたからね。決算書も公開していますし、隠し事はなしです。経営者が社員を大切にすると、社員はお客様を思って丁寧な仕事として返してくれ、良い循環が生まれると考えています。日本の企業のうち99.7%が中小企業ですから社員を幸せにする経営者が増えると地域そのものが良くなるはずです。
ーなるほど、川上社長らしいですね(笑)
ーお客様から問合せがあった際、どのような提案をしているんですか?
川上:たぶん、お客様にとって、塗装業ってわかりにくいと思うんですよ。塗装と外壁の診断士の資格を持っている社員が現地調査をしっかりすることを徹底しています。弊社では目測ではなくきちんと屋根に上ってメジャーや計測器で面積を測ります。そして、サビ具合や塗膜の劣化箇所の写真を撮ってその場でお客様にお見せします。その後、お客様の希望をお伺いした上で見積書と建物診断報告書を作成してわかりやすく提案するようにしています。
また、弊社の強みは塗装だけではなく、自社職人で屋根板金と大工工事もできることなので、屋根周りや屋内で不具合がある場合は併せて診断してお見積りに加えています。塗装業だと目に見える部分しか改善しないんですが私たちは大工や板金の技能があるので、表面だけではなく不具合の箇所を見つけ出して根本から解決し表面で保護します。
ー実際に施工する上で心がけていることなどはありますか?
川上:常に忘れないように心掛けているのは “弊社にとっては数ある物件のうちのひとつだが、お客様にとってはたったひとつしかない大切な家” ということです。
どうしても忙しくなると「作業」になりがちですが、そんな時こそ、この言葉を忘れないように心掛けています。お客様にとっては、たったひとつしかない大切な思い出の詰まった“我が家”です。
「作業」としてではなく「仕事」の思いとプライドを持って施工するよう、社員に伝えています。手抜き工事なんてできないですよね。何よりも社員が「気持ち悪い仕事なんてしたくない!」と言って見えない所こそ丁寧に塗装をしています。工事レベルに関しては社員の方が意識が高く、隅々まで配慮してくれるので、信頼して任せています。それでも、思いがけないミスや不具合が起きることもありますから、私が出ていくのはそういう時だけですね。
ー業者はたくさんありますが、プロから見た良い業者を見分けるポイントってありますか?
川上:塗装=“塗る”という作業が重要視されますが、実は下地調整が一番大切なんです。簡単に言うと“汚れとサビをいかにきれいに除去するか”ということです。高圧洗浄は通常どの塗装屋でも行っているでしょうが、サビを削る「ケレン」という作業に差が出ます。手作業で削って終わりなのか、電動工具で削るのか。屋根面だけ削るのか、ハゼ(屋根の重なり部分)の中まで削るのか。サビの原因をきちんと除去しないと塗装した直後は良くても数年後に差は歴然ですからね。
弊社では社員が下地調整には強いこだわりを持っていますから、下地調整では最高レベルだと自負しています。そのため一定基準を満たした施工内容の住宅には、自信を持って施工後の無償点検と自社の施工保証をつけています。
ー今後はどのような会社にしたいとお考えですか?
川上:会社として目指す姿は「地域に必要とされる会社」ですね。残念ながら、現時点では弊社が無くなっても品質を問わなければ他社でも同じような塗装ができるため、さほど困るお客様はいないと思います。それはまだ「存在価値が無い」という現状ですね。今後は3つの技術(塗装・屋根板金・大工)を柱にして、地域になくてはならない企業になっていきたいです。
地域との関わりで目指す姿は、他業種との連携を大切にして「社内外で関わるすべての人を幸せにする会社」にして、街づくりに繋げていきたいです。
ーますます今後が楽しみですね。これからもご活躍を期待しています!
川上:がんばります!ありがとうございました。
1 2

3

TOP
TOP